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あまから手帖 & 山海の宿ごはん
↑月刊誌 『あまから手帖』 と クリエテMOOK 『山海の宿ごはん』の両方で
ご紹介いただきました。ありがとうございました。
越前ガニに喰らいつく
藤の花のように可憐に咲いた刺身。
透き通ったその身は、ほのかな甘みを放ちながら口中で雪のように融けて
いく。
さっきまで哲弥さんが表で湯がいていた茹でガニは、関節をバキッと折って、
ハサミでガシガシと切り開き、豪快にしゃぶりつく。
岩のように固い甲羅の中にはびっしり身が詰まっており、きめ細かい光沢を
放つ。強烈な甘みと分厚い食感、噛んだ瞬間に一気にバラけるその柔ら
かさもたまらない。
そして、いよいよ哲弥さんイチオシの焼きガニが登場。
ハサミを入れて甲羅から飛び出てくる身を貪る。
香ばしく、どこまでも甘い風味。口中でザクザクと割れていくその鮮やかな
食感に、誰もが夢中になることだろう。
「カニは生涯、十数回も脱皮を繰り返します。
脱皮したてで甲羅がやわらかく、身が痩せているものがズボ(水ガニ)。
成長して身が詰まると、甲羅がカンカンに硬くなって重たくなるんです。
それぞれ味も違いますから料理法も変えなきゃならない」。
いくら食べても飽き足らない焼きガニから溢れ出る旨みのジュース。
その透明感はやはり新鮮なことが不可欠である。
「越前ガニは水揚げされた港で、生きているままセリにかけられるんです。
僕は必ず港まで行って、この目で品物を見定めているんですよ」。
哲弥さんが通うのは越前港か三国港。昨今トレーサビリティが各地で
導入されているが、福井県は特にカニの管理が徹底していることで
有名だ。表の生簀のカニの爪にもしっかりと黄色いタグがついている。
さて、食事の仕上げはセイコ雑炊。鍋の後のものではなく、雄のカニの
殻でとっただしとセイコ(雌のカニ)で一品料理に仕立ててくれるのが
嬉しい。
濃厚な内子と歯ごたえ豊かな外子。
セイコの2種の卵で、底知れぬコクが広がっている。
充分にお腹いっぱいのはずなのに、外の強風にも負けぬ勢いでカチカチと
土鍋にスプーンをぶつけながら一気に平らげてしまった。
シーズン中の週末ともなると、宿はカニを食べる人で満室となる。
だが人を寡黙にさせるカニだけに、宿の中は風と潮の音ばかりが響き渡って
いる。満腹の腹を抱えて、南西角の部屋の大きな窓から、ふと外を眺める。
が、真西は真っ暗で何も見えず、暗闇からは依然、突風と岩を砕く荒れた
潮音だけが響いていた。ゴー、ズド〜ン、ザザー・・・。
( あまから手帖2005年2月号 特集記事より一部抜粋しました )


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